賀茂道子氏との係争に勝訴しました

皆様

 2024年2月から名古屋大学特任准教授である賀茂道子氏との裁判に決着がつきましたので、ご報告いたします。

 賀茂氏は当研究会のウェブサイトに掲載されている『歴史認識問題研究』第11号(2022年)内の書評データを削除せよと弁護士を通じて請求してきました。該当のデータは有馬哲夫早稲田大学教授による賀茂氏の『GHQは日本人の戦争観を変えたか-「ウォー・ギルト」をめぐる攻防』(光文社、2022年)の書評です。

 有馬氏は、同書は江藤淳『閉ざされた言語空間 占領軍の検閲と戦後日本』(文藝春秋社、1989年)以外の先行研究に触れておらず、同じテーマを扱った髙橋史朗氏や関野道夫氏、若林幹夫氏などの先行研究が紹介されていないと指摘しました。賀茂氏は『GHQは日本人の戦争観を変えたか』で「WGIP洗脳言説」を否定していますが、同じ試みは、若林幹夫『「GHQ洗脳説」は誤りである』(デザインエッグ社、2018年)でより詳細に述べています。また、賀茂氏はこの「洗脳」に関して「日本人の視点を入れる必要性」について書いており、これが彼女独自のものだと主張しているが、若林氏も前述書で同様のことを述べていることを有馬氏は指摘しました。若林氏の著書は賀茂氏より4年先行しており、全く同じではないが、読者は前述書についての言及がなければ、そしてどこが違うのかを示さなければ、すべて賀茂氏独自の発想だと思うだろう、と言及して、有馬氏は「彼女の著書は、研究倫理上きわめて大きな問題があるといわざるを得ない」と批評しました。

 その後、2024年2月21日に賀茂氏が依頼した弁護士より当研究会のメールに書評削除を要求する連絡が届き、翌22日には同内容の内容証明書が歴史認識問題研究会事務局に届きました。歴認研は「言論には言論で対抗する」をモットーとしており、書評削除に法的な理由がないものと判断し、応じられない旨を伝えました。これにより、賀茂氏は名古屋地方裁判所に掲載データ削除の仮処分命令を申し立て、歴認研と賀茂氏の係争が始まりました。

 2025年2月28日に名古屋地裁が賀茂氏の要求を全て認め、有馬氏の書評に関する歴認研のウェブサイト記事を「仮に削除」するよう命令しました。これにより、一時期、有馬氏の書評がウェブ上で閲覧できなくなりましたが、歴認研は削除命令を不当として、命令を取り消すための「保全異議」の申立てを名古屋地裁に対して行いました。その結果、2025年9月30日に保全異議申立決定で歴認研が勝訴しました。仮削除の命令が取り消され、歴認研は有馬氏の書評を復活させましたが、賀茂氏側が不服を申し立てたため、高裁まで審理が進みました。そして、今年の2月6日に名古屋高裁が賀茂氏の請求を棄却したことで、歴認研の勝訴が確定しました。地裁、高裁とも、有馬氏の書評は意見ないし論評であること、違法性阻却事由が認められること(公益性があり、著しく回復困難な損害を被るおそれが賀茂氏にあるとは認められない)からして賀茂氏が求めた仮処分決定は認可できないという判断でした。

 約2年間の裁判を闘い抜けたのも、多くの方々が歴史認識問題研究会の研究活動を支持し、応援して下さったお陰です。この場をお借りして御礼申し上げます。また、代理人として適切な弁護活動をしてくださった内田智弁護士にも感謝します。賀茂氏との係争を通じて、歴認研は改めて、学問・表現の自由は何があっても守らねばならないと実感しました。批判されたからといって、学術的に反論せずに法的手段を用いて相手の言論を封殺しようとするのは、研究者としてあるまじき行為です。私たち歴認研のメンバーも主義主張の異なる研究者から批判され、名誉を傷つけられることは珍しいことではありません。しかし、私たちのうち一人でも裁判に訴えた者はいません。それは、自分が研究者であり、言論人であることを自覚し、責任をもって研究活動をしているからです。他の学術団体が、当研究会の姿勢を見て、学問・表現の自由の重要性を再確認していただければ幸いです。

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